受任通知が出たあとの生活|「取立てが止まる」の範囲を条文で確かめる
「弁護士に頼めば請求が止まる」と言われますが、根拠は貸金業法21条1項9号という一つの号です。その文言を読むと、止まるもの・止まらないものの線がはっきり見えてきます。よく聞く7つの言い方を条文と突き合わせ、税・裁判・給与差押え・家族への連絡がどう扱われるかを整理しました。

「弁護士に頼めば、翌日から一切の請求が止まる」。債務整理の話でいちばんよく流通している言い方ですが、この一文には、条文に照らすと外れている部分がいくつも混じっています。止まるものは確かに止まります。止まらないものは止まりません。この記事は、よく聞く言い方を一つずつ取り上げ、根拠になる条文の文言と突き合わせていく形で進めます。個別の事案でどうなるかの判断はしません。
そもそも、根拠はこの一つの号にある
受任通知の効果としてよく語られるものの大半は、貸金業法21条1項9号に由来します。条文はこう書かれています。
債務者等が、貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士、弁護士法人若しくは弁護士・外国法事務弁護士共同法人若しくは司法書士若しくは司法書士法人(以下この号において「弁護士等」という。)に委託し、又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとり、弁護士等又は裁判所から書面によりその旨の通知があつた場合において、正当な理由がないのに、債務者等に対し、電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は訪問する方法により、当該債務を弁済することを要求し、これに対し債務者等から直接要求しないよう求められたにもかかわらず、更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求すること。
出典:貸金業法 第21条第1項第9号(e-Gov法令検索)(2026年9月28日確認) なお同項の柱書は、この号を含む言動を「人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動」として禁止しています。以下、この号を読みながら誤解を一つずつ潰していきます。
誤解1「通知が届いたら、いっさい連絡が来なくなる」
条文が禁じているのは、電話・電報・ファクシミリ・訪問という方法で、弁済を要求することです。しかも「正当な理由がないのに」という限定と、「直接要求しないよう求められたにもかかわらず、更に」という段取りが書き込まれています。書面の送付そのものは同条2項が別に規律しており(支払を催告するために書面等を送付するときに記載・記録すべき事項を定めています)、この号の対象ではありません。連絡が一切消えるという書き方は、条文にはありません。
誤解2「相手が誰であっても効く」
21条1項の主語は「貸金業を営む者又は貸金業を営む者の貸付けの契約に基づく債権の取立てについて貸金業を営む者その他の者から委託を受けた者」です。つまり貸付けの契約に関する規定であって、税金・社会保険料・公共料金・家賃・養育費といった、貸付け以外の支払いをこの号でまとめて止めることはできません。税や保険料の側には、まったく別の手続と条文が用意されています。差押えには二つの道があると税金の猶予・分納を申し出るときをご覧ください。
誤解3「裁判も止まる」
この号は取立て行為の規制であり、裁判所の手続を止める規定ではありません。訴訟の提起も支払督促の申立ても、これとは別の線路を走ります。裁判所から書類が届いたときは、期間が区切られているため、受任通知を出したかどうかにかかわらず中身を確認する必要があります。書面の見方は裁判所から支払督促が届いたらに整理しました。
誤解4「給与の差押えも止まる」
これも別の話です。給与債権の差押えは民事執行法152条の枠内で行われ、同条1項は、支払期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分(その額が政令で定める額を超えるときは政令で定める額に相当する部分)は差し押さえてはならないと定めています。3項は、養育費など同法151条の2第1項各号に掲げる義務に係る金銭債権を請求する場合について、「4分の3」を「2分の1」と読み替えると定めています。出典:民事執行法 第152条(e-Gov法令検索)(2026年9月28日確認) 残る額の計算は給与を差し押さえられたとき、手元に残る額はどう決まるかにまとめています。
誤解5「家族や勤務先には絶対に知られない」
21条1項には、9号のほかにも、取立てにあたっての禁止事項が並んでいます。
- 3号:正当な理由がないのに、債務者等の勤務先その他の居宅以外の場所に電話をかけ、電報を送達し、ファクシミリで送信し、または訪問すること
- 5号:貼り紙、立看板その他何らの方法をもってするを問わず、債務者の借入れに関する事実その他債務者等の私生活に関する事実を債務者等以外の者に明らかにすること
- 7号:債務者等以外の者に対し、債務者等に代わって債務を弁済することを要求すること
- 8号:債務者等以外の者が居所・連絡先を知らせることその他の取立てへの協力を拒否している場合に、更に協力を要求すること
これらはいずれも取立ての場面の規制です。ただし、ここでいう「債務者等」は、同法2条5項で「債務者又は保証人」と定義されています。つまり保証人は「債務者等以外の者」ではありません。5号・7号・8号によって守られる側ではなく、請求を受ける側に立つということです。出典:貸金業法 第2条第5項(e-Gov法令検索)(2026年9月28日確認) 保証人と連帯保証人の違いを先に見ておくのが安全です。
誤解6「守らない業者がいても、どうにもならない」
貸金業法47条の3第1項3号は、21条1項の規定に違反した者を2年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金に処し、またはこれを併科すると定めています。出典:貸金業法 第47条の3(e-Gov法令検索)(2026年9月28日確認) 登録を受けていない相手からの取立てで困っているときは、警察と、無登録業者の見分け方の記事に挙げた窓口が入口になります。
誤解7「あとは代理人に任せておけば、こちらは何もしなくていい」
日本弁護士連合会の会規「債務整理事件処理の規律を定める規程」17条は、受任した側に報告の義務を課しています。3項は、債権者が開示した取引履歴その他の重要な事項について報告・説明をするときは、自ら面談するか書面・ファクシミリ・電子メール等の方法によって行い、必要に応じて引直し計算の結果を記した書面その他の資料を示さなければならないとしています。2項は、和解契約書・調停調書その他の結果を示す文書を作成・受領したときの原本または写しの交付を、1項は破産・再生の申立事件について裁判所の決定書等の交付を定めています。出典:債務整理事件処理の規律を定める規程 第17条(日本弁護士連合会・会規第93号)(2026年9月28日確認) 届いた書面は、受け取ったら残しておくほうがよいということでもあります。
この記事で書かなかったこと
受任通知の話には「口座が凍結される」「クレジットカードが即日使えなくなる」といった説明がよく添えられます。これらは法律の条文ではなく個々の契約や各社の運用に関わる事柄で、公的機関が公開している根拠を確認できなかったため、この記事では扱っていません。信用情報の登録期間についても同様に本稿では扱わず、債務整理をすると信用情報はいつ消える?と信用情報の開示請求のやり方に譲ります。
困ったときの連絡先
取立てが条文の線を越えていると感じたとき、あるいは通知を出したあとの生活の組み立てに不安があるときは、次の窓口があります。
- 弁護士(弁護士会の法律相談センター):「ひまわりお悩み110番」0570-783-110 にかけると、その地域に近い弁護士会の法律相談センターにつながります。全国約300か所で法律相談が行われており、相談時間はおおむね30分、相談料は地域や相談内容により異なるものの5,500円前後と案内されています(受付時間の記載はありません)。出典:ひまわりお悩み110番(日本弁護士連合会)(2026年9月28日確認)
- 司法書士(司法書士総合相談センター):全国約150か所で、借金問題を含む相談を受け付けていると案内されています。出典:司法書士総合相談センター一覧(日本司法書士会連合会)(2026年9月28日確認)
- 法テラス:サポートダイヤル 0570-078374(平日9時〜21時、土曜9時〜17時。祝日・年末年始を除く)。資力の基準を満たす場合、弁護士・司法書士による無料法律相談を1回30分・同一の問題につき3回まで利用できます。出典:法テラス・サポートダイヤル(2026年9月28日確認)/無料法律相談のご利用の流れ(法テラス)(2026年9月28日確認) 当サイトの法テラスの使い方ガイドもあわせてどうぞ。
- 日本クレジットカウンセリング協会:多重債務ほっとライン 0570-031640。公益財団法人であり、相談料は無料と案内されています。出典:公益財団法人日本クレジットカウンセリング協会(2026年9月28日確認)
- 消費生活センター:消費者ホットライン「188」。契約や取引についてのトラブルの窓口です。出典:消費者ホットライン(消費者庁)(2026年9月28日確認)
- 財務局など:金融庁は、多重債務についての相談先として法テラス・日本弁護士連合会・日本司法書士会連合会・日本貸金業協会・日本クレジットカウンセリング協会・全国銀行協会を案内し、全国の財務局の多重債務相談窓口の一覧も掲載しています。出典:相談・情報提供窓口(金融庁)(2026年9月28日確認)
どこから当たればよいか決められないときは、当サイトの相談先ディレクトリに窓口を用途別にまとめています。
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この記事の執筆者
マネーガイドジャーナル編集部
金融関連情報サイトの運営実績を多数持つ編集チーム。株式・不動産・FXなど幅広い金融資産の運用経験と、外資系ITコンサルティングファームで金融機関の案件に従事した実務経験をもとに、公式サイト・公的機関の一次情報を確認しながら記事を制作しています。
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