養育費が払えなくなったら|減額の調停と、払わずに放置した場合の差押え
取り決めた養育費が払えなくなったら、家庭裁判所に減額の調停を申し立てる方法があります。放置すると将来分を含む給料の差押え(手取りの2分の1まで)や財産開示の対象になります。民事執行法と裁判所の案内(2026年11月4日確認)で2つの道を比べます。

調停や公正証書で取り決めた養育費が、収入の減少などで払えなくなった場合、支払う側が取れる道は大きく2つに分かれます。家庭裁判所に減額を求める調停を申し立てるか、何もせずに支払いが止まるか、です。後者を選ぶと、受け取る側は給料の差押え(将来の分を含む)や財産開示手続を使うことができ、養育費は一般の借金よりも差し押さえられる範囲が広く定められています。本記事では、民事執行法・家事事件手続法・破産法の条文(e-Gov法令検索)と裁判所の手続案内(いずれも2026年11月4日確認)をもとに、2つの道を比べて説明します。
2つの道の比較
| 項目 | 減額を申し立てる道 | 払わずに放置した場合の道 |
|---|---|---|
| 使う手続 | 家庭裁判所の養育費(減額)請求調停。まとまらなければ審判 | 受け取る側による履行勧告・強制執行(差押え)・財産開示手続・第三者からの情報取得手続・間接強制 |
| 申立先 | 相手方の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所 | 差押えは原則として支払う側の住所地を管轄する地方裁判所 |
| 決まる内容 | 事情の変更を踏まえた新しい養育費の額 | 取り決めた養育費の全額(未払い分)と、将来の分の給料差押え |
| 給料への影響 | 合意・審判の内容による | 手取額の2分の1まで差押えの対象(一般の債権は4分の1まで) |
| 自己破産した場合 | 養育費の請求権は免責の対象外(破産法253条1項4号) | |
出典:養育費に関する手続(裁判所)/養育費請求調停(裁判所)/債権執行(養育費に基づく差押え)(裁判所)/破産法253条(e-Gov法令検索)(2026年11月4日確認)
減額を申し立てる道:養育費請求調停
裁判所は、一度決まった養育費であっても、その後に事情の変更があった場合には、養育費の額の変更を求める調停や審判を申し立てることができると案内しています。申立てや手続の流れは、養育費を新しく決めるときの養育費請求調停・審判と同じです。
事情の変更として裁判所が挙げている例
裁判所の「養育費に関する手続」では、増額・減額を求められる場合として「予定していなかった収入の変動、子どもの進学、再婚などの事情の変更」が挙げられています。どの事情がどの程度考慮されるかは、個別の調停・審判で判断されます。
申立ての概要
- 申立人:父または母
- 申立先:相手方の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所
- 主な書類:申立書とその写し、対象となる子の戸籍謄本(全部事項証明書)、申立人の収入に関する資料(源泉徴収票・給与明細・確定申告書・非課税証明書の写しなど)、事情説明書、進行に関する照会回答書
- 費用:収入印紙(子ども1人につき)と連絡用の郵便切手。郵便料は裁判所ごとに異なります
調停では、養育にかかっている費用や双方の収入など一切の事情を当事者から聴き、必要に応じて資料の提出を求めたうえで、解決案の提示や助言を行いながら合意を目指します。話合いがまとまらず調停が不成立になると審判手続が始まり、裁判官が一切の事情を考慮して判断します。
算定表の位置づけ
裁判所によると、養育費の調停・審判では、父母双方の収入額と子の年齢・人数に応じて標準的な額の目安を算出する「算定表」が参照されることが一般的で、算定表の額を参照しつつ個別事情も考慮して具体的な額が検討されます。算定表は裁判所の「養育費に関する手続」ページからリンクされている平成30年度司法研究の報告に掲載されています(養育費は表1〜9)。
出典:養育費に関する手続(裁判所)/養育費請求調停(裁判所)(2026年11月4日確認)
払わずに放置した場合の道
減額の取決めがないまま支払いが止まると、受け取る側は次の手続を使うことができます。裁判所の差押えの案内では、債務名義に基づく強制執行で「取り決めた養育費の全額の支払を請求することができます」とされています。
1. 履行勧告
家庭裁判所の調停・審判・人事訴訟で定められた養育費については、受け取る側が家庭裁判所に履行勧告を申し出ると、家庭裁判所が必要な調査をしたうえで、取決めを守るよう勧告します(家事事件手続法289条)。手続に費用はかからず、勧告に応じない場合に履行を強制することはできません。公正証書など家庭裁判所以外で合意したものは、履行勧告の対象になりません。
このほか家庭裁判所は、審判や調停で定められた金銭の支払を怠った人に対し、相当の期限を定めて履行を命じることができ、正当な理由なく命令に従わないときは10万円以下の過料に処すると定められています(同法290条)。
出典:履行勧告手続(裁判所)/家事事件手続法289条・290条(e-Gov法令検索)(2026年11月4日確認)
2. 給料の差押え(将来の分も対象)
養育費のように定期的に支払時期が来る扶養義務等の債権は、一部に不払いがあると、まだ支払日が来ていない将来の分についても差押えを申し立てることができます(民事執行法151条の2)。将来の分として差し押さえられるのは、給料など継続的に支払われる金銭で、その支払時期が養育費の支払日よりも後に来るものです。預金などを差し押さえる場合は、未払い分に限られます。
差し押さえられる範囲も、一般の借金より広く定められています。民事執行法152条は給料等の4分の3を差押禁止としていますが、養育費などを請求する場合は「4分の3」を「2分の1」と読み替えます(同条3項)。裁判所の案内では、給与差押えの上限は手取額の2分の1(手取額が月66万円を超える場合は33万円を除いた金額)で、解決金・慰謝料など一般債権の場合は手取額の4分の1(月44万円を超える場合は33万円を除いた金額)とされています。
差押命令が勤務先(第三債務者)に送達されると差押えの効力が生じ、受け取る側は勤務先から直接支払いを受けることができます。差押命令は、支払う側本人と勤務先の双方に送達されます。
3. 取決めがある養育費の優先回収(先取特権)
裁判所の案内によると、父母間の合意、調停調書や公正証書などで取り決めた養育費が支払われない場合、月額8万円に子の数を乗じた額を上限として、一般の債権者に優先して回収できる担保権実行の手続があります。対象は令和8年4月1日以降に発生した養育費に限られます。また、令和8年4月1日以降の離婚(または認知)で養育費を取り決めていない場合も、子を主として監護している親は、子1人当たり月額2万円の法定養育費を請求できます(民法766条の3)。
4. 財産開示手続と第三者からの情報取得
差し押さえる財産が分からない場合、受け取る側は地方裁判所に財産開示手続を申し立てることができます(民事執行法197条)。呼出しを受けた財産開示期日に正当な理由なく出頭しない、宣誓を拒む、陳述しない、虚偽の陳述をすると、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象になります(同法213条1項5号・6号)。
また、養育費などの債権者は、市町村や日本年金機構などに対し、支払う側の勤務先(給与債権)に関する情報の提供を命じるよう裁判所に申し立てることができます(同法206条)。預貯金の情報は銀行等から(同法207条)、不動産の情報は登記所から(同法205条)取得する手続もあります。裁判所は、財産開示や給与債権の情報取得と同時に給与の差押命令の申立てをしたものとみなす「ワンストップ執行手続」も案内しています。
5. 間接強制
養育費などの支払をしない人に、一定期間内に支払わなければ間接強制金を課すと決定して、自発的な支払を促す手続です(民事執行法167条の15)。ただし、支払う側が支払能力を欠くために払えないとき、または支払うことで生活が著しく窮迫するときは、この方法はとられません(同条1項ただし書)。
出典:債権執行(養育費に基づく差押え)(裁判所)/養育費に関する手続(裁判所)/民事執行法151条の2・152条・167条の15・197条・205条〜207条・213条(e-Gov法令検索)(2026年11月4日確認)
自己破産をしても養育費は残る
破産法253条1項は、免責許可の決定が確定しても責任を免れない請求権として、民法766条(子の監護に関する事項)などにもとづく義務に係る請求権を挙げています(同項4号)。ほかの借金を整理しても、養育費の支払義務は残ります。借金と養育費が重なっている場合は、借金の側を整理したうえで、養育費は減額の調停で額を見直す、という順序で検討することになります。免責の対象外になる債権は自己破産の免責でも扱っています。
出典:破産法253条(e-Gov法令検索)(2026年11月4日確認)
払えないと分かった時点で確認すること
- 取決めの形式:家庭裁判所の調停調書・審判書か、公正証書か、当事者間の合意書か。履行勧告の対象になるか、差押えにどの書類が使われるかが変わります(調停調書は執行文不要、審判書は確定証明書が必要、公正証書は執行文が必要と裁判所は案内しています)。
- 収入の変化を示す資料:源泉徴収票、給与明細、確定申告書、非課税証明書など。減額の調停で収入資料の提出が求められます。
- 相手方の住所:減額の調停の申立先は、原則として相手方の住所地の家庭裁判所です。
- ほかの支払い:税金や借入れの返済も重なっている場合は、滞納の優先順位で全体を整理します。
差押えを受けた後に手元に残る額の考え方は給与を差し押さえられたとき、手元に残る額で、差押えの手続の違いは差押えの二つの手続で説明しています。
相談先
- 家庭裁判所:減額の調停の申立て、書式・記入例、郵便料の確認。養育費請求調停(裁判所)
- 養育費・親子交流相談支援センター:養育費と親子交流に関する電話・メール相談。養育費・親子交流相談支援センター
- 法テラス:調停や差押えへの対応、借金が重なっている場合の法律相談。法テラス・サポートダイヤル 0570-078374(平日9時〜21時、土曜9時〜17時)。日本司法支援センター(法テラス)
法テラスの使い方は法テラスの使い方ガイドにまとめています。
この記事の執筆者
マネーガイドジャーナル編集部
金融関連の情報サイトについて多数の運営実績を持つ編集チームです。株式・不動産・FXなど幅広い金融資産の運用経験と、外資系ITコンサルティングファームで金融機関の案件に従事した実務経験をもとに、公式サイト・公的機関の一次情報を確認しながら記事を制作しています。
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