払えない状態が続いたとき|「滞納処分の停止」という条文と、その三年
国税徴収法153条と地方税法15条の7には、徴収する側が滞納処分の執行を止めるという定めがあります。三つの要件、差押えの解除、三年で納付義務が消滅する仕組み、そして取消しの条文まで。時効(5年)との違いと、誤解されやすい点を条文に即して整理します。

税や保険料の滞納について語られるとき、話はたいてい「差押え」で止まります。けれども国税徴収法には、その先にもう一つ、徴収する側が滞納処分の執行を止めるという条文が置かれています。「滞納処分の停止」です。あまり知られていない一方で、誤解も多い仕組みなので、この記事では条文の文言を出発点に、書いてあることと書いていないことを分けて整理します。適用されるかどうかの判断は徴収する側が行うため、ここで「あなたは該当する」といった判定をすることはできません。
条文には何が書いてあるか
国税徴収法153条1項は、次のように定めています。「税務署長は、滞納者につき次の各号のいずれかに該当する事実があると認めるときは、滞納処分の執行を停止することができる。」
- 滞納処分の執行等をすることができる財産がないとき
- 滞納処分の執行等をすることによってその生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき
- その所在および滞納処分の執行等をすることができる財産がともに不明であるとき
出典:国税徴収法 第153条(e-Gov法令検索)(2026年9月25日確認)
停止されると何が起きるか
- 本人に通知される。「税務署長は、前項の規定により滞納処分の執行を停止したときは、その旨を滞納者に通知しなければならない」(同条2項)。
- 2号による停止のときは、差押えが解除される。「第一項第二号の規定により滞納処分の執行を停止した場合において、その停止に係る国税について差し押さえた財産があるときは、その差押えを解除しなければならない」(同条3項)。
「三年」という区切り
同条4項は、「第一項の規定により滞納処分の執行を停止した国税を納付する義務は、その執行の停止が三年間継続したときは、消滅する」と定めています。また5項は、1号(財産がないとき)により停止した場合で、その国税が限定承認に係るものであるときなど、徴収することができないことが明らかであるときは、税務署長は納付義務を直ちに消滅させることができるとしています。
地方税にも同じ形の条文がある
地方税法15条の7は、地方団体の長について、国税徴収法153条とほぼ同じ三つの要件、通知義務、2号の場合の差押解除、そして「その執行の停止が三年間継続したときは、消滅する」という定めを置いています。住民税・固定資産税・軽自動車税・国民健康保険税などの地方団体の徴収金も、この枠組みの中にあります。出典:地方税法 第15条の7(e-Gov法令検索)(2026年9月25日確認)
時効(5年)とは別の制度である
「3年で消える」と聞くと、時効の話と混ざりやすいところです。二つは別の条文に立っています。
| 滞納処分の停止 | 徴収権の消滅時効 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 国税徴収法153条/地方税法15条の7 | 国税通則法72条/地方税法18条 |
| 起点 | 執行の停止がされた時点 | 法定納期限(地方税は法定納期限の翌日から起算) |
| 期間 | 停止が3年間継続したとき | 5年間行使しないとき |
| 始まり方 | 徴収する側が要件に該当すると認めて停止する | 期間の経過による |
| 援用 | — | 援用を要せず、その利益を放棄することもできない |
出典:国税通則法 第72条(e-Gov法令検索)(2026年9月25日確認)/地方税法 第18条(e-Gov法令検索)(2026年9月25日確認)
誤解されやすい三つの点
1 自分から「申請する」制度としては書かれていない
条文の主語は「税務署長は」「地方団体の長は」であり、猶予の制度のように納税者の申請を要件とする書き方にはなっていません。国税庁が申請書の様式を公開しているのは換価の猶予・納税の猶予であって、滞納処分の停止ではありません。したがって、できることは「窓口に現状を正確に伝える」ことであり、停止の判断そのものは徴収する側が行います。
2 「免除してもらう制度」ではない
停止は、あくまで執行を止めるという処分です。納付義務が消滅するのは、3年間の継続という条件を満たした場合か、5項の「徴収することができないことが明らかであるとき」に限られます。停止された時点で税額がなくなるわけではありません。
3 停止は取り消されることがある
国税徴収法154条1項は、「税務署長は、前条第一項各号の規定により滞納処分の執行を停止した後三年以内に、その停止に係る滞納者につき同項各号に該当する事実がないと認めるときは、その執行の停止を取り消さなければならない」と定めています。取り消したときは、その旨を滞納者に通知しなければなりません(同条2項)。地方税法15条の8も同じ形です。3年のあいだに状況が変われば、停止は続かないということです。出典:国税徴収法 第154条(e-Gov法令検索)(2026年9月25日確認)/地方税法 第15条の8(e-Gov法令検索)(2026年9月25日確認)
では、いま何をすればよいのか
滞納処分の停止は、こちらから選び取れる手続ではありません。いま自分の側から動かせるのは、次の二つです。
- 収支の実態を、数字で説明できるようにする。手元にいくらあり、当面いくら出ていくのか。これは猶予の申請でも滞納処分の停止の判断材料でも、共通して見られる部分です。準備の仕方は税金の猶予・分納を申し出るとき、何を用意し、何を聞かれるかにまとめました。
- 連絡を絶たない。条文の3号は「その所在および滞納処分の執行等をすることができる財産がともに不明であるとき」ですが、これは所在不明が有利に働くという意味ではありません。所在が分からない状態は、猶予の相談も減免の相談もできない状態でもあります。
生活そのものが立ち行かないとき
税や保険料の話に見えても、実際には生活の立て直しが先という場合があります。生活困窮者自立支援制度の自立相談支援機関は、制度の振り分けから手続の同行まで相談できる窓口です。医療費については医療費が払えないときに使える公的制度、住まいについては住居確保給付金という制度があります。いずれも、税の猶予と並行して相談して差し支えありません。
あわせて読みたい
相談できる窓口
- 国税:所轄の税務署(徴収担当)。猶予や分割の相談窓口は税務署の徴収担当です。国税の納税の猶予制度に関するFAQ 問1(国税庁徴収課)(2026年9月25日確認)
- 地方税(住民税・固定資産税・自動車税など):都道府県・市区町村の納税課・収納課。
- 社会保険料:厚生年金保険料等は日本年金機構、労働保険料は都道府県労働局。国民健康保険料・国民年金保険料は市区町村の窓口・年金事務所。
- 生活全体の立て直し:お住まいの自治体の自立相談支援機関、社会福祉協議会(生活福祉資金貸付)。
- 法律に関わる相談先の案内:法テラス・サポートダイヤル 0570-078374(平日9時〜21時、土曜9時〜17時)。法テラス 相談窓口・ダイヤル一覧(2026年9月25日確認) 法テラスの使い方もあわせてご覧ください。
- 契約・取引のトラブル:消費者ホットライン「188」。つながらないときは国民生活センターのバックアップ相談(03-3446-0999/平日10時〜16時)。消費者ホットライン(消費者庁)(2026年9月25日確認)
どこに相談すればよいか分からないときは、相談先ディレクトリに窓口をまとめています。
この記事の執筆者
マネーガイドジャーナル編集部
金融関連情報サイトの運営実績を多数持つ編集チーム。株式・不動産・FXなど幅広い金融資産の運用経験と、外資系ITコンサルティングファームで金融機関の案件に従事した実務経験をもとに、公式サイト・公的機関の一次情報を確認しながら記事を制作しています。
- 掲載情報は公式サイト・政府広報・金融庁等の一次情報を確認し、確認日を明記します
- 確認できない情報は「確認できず」と正直に記載し、憶測で断定しません
- 特定サービスの利用をあおらず、リスクと公的な相談先を必ず併記します



